GRPOを極める:Unslothを用いた推論LLMの効率的な学習
GRPOを極める:Unslothで推論LLMを効率的に学習させる
強化学習(RL)は、報酬システムに導かれながら試行錯誤を通じて最適な振る舞いを学習させる、人工知能における強力なパラダイムです。多くのAIにおける画期的な進歩の中心にある一方で、特に大規模言語モデル(LLM)を強化学習で学習させることは、これまでVRAMを大量に消費し、複雑な作業でした。この記事では、強化学習の核となる概念を掘り下げ、GRPOやPPOのような高度な技術を探求し、Unslothがいかにこの強力な学習手法を民主化しているかを詳しく解説します。
強化学習(RL)とは?
強化学習の核心は、「良い」結果を最大化し、「悪い」結果を最小化することにあります。パックマンのゲームを想像してみてください。環境はゲームの世界、行動は移動(上、左、右、下)、そして報酬はクッキーを食べるとプラス、敵に当たるとマイナスです。AIエージェントは、まるで人間のプレイヤーのように、結果を観察し、より多くの報酬を得るために戦略を調整します。簡単に言えば、強化学習は出力に対してフィードバック(「報酬シグナル」)を与えることでモデルを学習させ、望ましい振る舞いへと徐々に誘導していく手法です。
例えば、「2 + 2は?」と尋ねられた言語モデルの場合、調整されていないモデルは適当な出力を生成するかもしれません。ここで報酬関数を設計します。「4」に対しては+3、「3」に対しては-3、そしてランダムな文字に対しては大きなペナルティを与えます。こうしてモデルは「4」を優先的に出力するように学習します。
RLHFとPPOからGRPOの効率性へ
人間フィードバックによる強化学習(RLHF)は、ChatGPTのようなモデルでOpenAIによって普及し、人間の評価(高評価/低評価など)を報酬シグナルとして使用し、AIの出力を人間の嗜好に合わせます。このプロセスでは、Proximal Policy Optimization(PPO)がよく採用されます。
PPOは、「エージェント」(言語モデル)を訓練して報酬を最大化する出力を生成するように機能します。これは、ジェネレーティングポリシー、リファレンスポリシー、バリューモデルの3つのシステムで構成されています。効果的ではあるものの、PPOは計算負荷が高く、その複雑な計算のためにかなりのメモリを必要とします。
これらの課題を認識し、DeepSeekはGroup Relative Policy Optimization(GRPO)を開発しました。GRPOは、バリューモデルを削除し、報酬モデルを検証可能な報酬による強化学習(RLVR)と連携するカスタム報酬関数に置き換えることで、効率を大幅に向上させます。RLVRは、数学の方程式やコード実行結果など、容易に検証可能な解に基づいた報酬を可能にします。この革新により、GRPOは非常に効率的となり、維持する必要があるモデルの数を減らすことで、メモリを節約し、学習速度を向上させます。
GRPOの「Group Relative(グループ相対)」という側面は、LLMを複数回サンプリングすることで平均報酬を推定する方法に由来します。「2+2は?」のような質問に対して、GRPOは様々な回答をサンプリングし、それぞれに報酬を計算し、統計的にアドバンテージスコアを導き出します。これにより、メモリを大量に消費するバリューモデルを実質的に置き換えることができます。
強化学習における「忍耐こそがすべて」の原則
その根本において、強化学習は「忍耐」を活用します。質問と検証可能な報酬関数が与えられれば、強化学習モデルは良い回答が得られるまで繰り返し呼び出すことができます。最初は多くの誤った出力を生成するかもしれませんが、報酬シグナルがモデルの出力分布を徐々に「刈り込み」、望ましくない回答から正しい回答へとシフトさせます。強化学習は非効率ではありません。むしろ、モデルを「正しい回答の空間」へと積極的に導き、正しい回答の確率が真にゼロでない限り、時間とともにパフォーマンスが向上していきます。
UnslothによるGRPO学習の画期的な進歩
Unslothは、GRPO学習を劇的に民主化することで際立っています。標準的なGRPOの実装では数百ギガバイトのVRAMが必要となる場合がありますが、Unslothは90%以上のVRAM削減で同等の結果を達成します。
Unslothの主な貢献:
* 前例のないVRAM効率: わずか5GBのVRAM(1.5Bパラメータまでのモデルの場合)で、17Bパラメータまでのモデル(Llama 3.1、Phi-4、Mistralなど)を学習させることができます。Llama 3.1(8B)のような大規模なモデルを20Kのコンテキスト長で学習する場合、Unslothはわずか54.3GBのVRAMしか使用しませんが、標準的な実装では510.8GBが必要です。
* 幅広いモデルサポート: 様々なオープンLLMを推論モデルに変換します。
* QLoRAおよびLoRAとの互換性: GRPO学習は、人気の高い低資源ファインチューニング技術とシームレスに統合されました。
* vLLMの統合: UnslothはファインチューニングスタックでvLLM
を直接使用でき、メモリ使用量を倍増させることなく高い推論スループットを提供し、大幅なVRAM節約を実現します。
* 内蔵の学習損失追跡: Unsloth内で直接GRPO学習の進捗を監視でき、外部ツールの必要がありません。
効果的な報酬関数の作成
効果的な報酬関数を設計することは極めて重要です。検証器が正確性を確認する(例:「2+2」に対する「4」は正しく、「5」は誤り)一方で、報酬関数は数値スコアを割り当てます。これらはしばしば連携して機能します。
報酬関数の例: * 単純な算術: 回答が数値であれば+1、正解と一致すればさらに+3。 * メール自動化: 必須キーワードがあれば+1、完全に一致すれば+1、長すぎれば-1、正しい受信者名であれば+1、署名ブロックがあれば+1。 * 距離ベース: Unslothは、正解に近い回答を評価するカスタム関数を提供します(例:「10」に対する「9」は「3」よりも良い報酬を得ます)。 * GSM8Kベース: 一般的な関数では、完全一致を評価したり、整数のみの回答を強制したり、ソフト/厳密なフォーマットをチェックしたり、XMLタグの数を検証したりします。
覚えておいてください。適切に設計された報酬関数は、モデルが単に回答を記憶するだけでなく、どのように回答が導き出されたかを学習するように導きます。ChatGPT 4oのような他のLLMを使って、特定のニーズに合わせた報酬関数の設計と評価を助けてもらうこともできます。
UnslothとGRPOを使用した学習における実践的なヒント
UnslothとGRPOを使用して推論モデルを学習する際に最適な結果を得るためには、以下のヒントを参考にしてください。
* 学習ステップ数: モデル、データ、報酬関数に応じて、少なくとも300ステップ以上(場合によっては1000ステップ以上)を目指してください。
* データ量: 10行から始めることもできますが、最適なパフォーマンスのためには500行以上の質の高いデータが推奨されます。
* モデルサイズ: 「思考トークン」を効果的に生成できるよう、少なくとも1.5Bパラメータ以上のモデルにGRPOを適用してください。
* VRAMの目安: QLoRA 4-bitの場合、必要なVRAMはモデルパラメータ数とほぼ同じです(例:8Bモデルには約8GBが必要)。LoRA 16-bitには、その少なくとも4倍のVRAMが必要です。
* 継続的なファインチューニング: GRPOは継続的な改善のためにバックグラウンドで実行できます。
* 依存関係: エラーが発生した場合はpip install diffusers
を実行し、最新のvLLM
バージョンを使用していることを確認してください。
* 強力なスタート: 既に命令チューニングされたモデルを使用することで、初期の確率を高め、学習をより効率的にすることができます。
Deep Dive:Unslothのメモリ最適化の妙技
UnslothがGRPO学習で示す驚くべきVRAM効率は、魔法ではなく、巧妙なエンジニアリングの賜物です。
* メモリ効率の高い線形カーネル: 長いコンテキストでのGRPOにおいてメモリ使用量を8倍削減し、約68.5GBのVRAMを節約し、torch.compile
と組み合わせることで逆説的に速度を向上させます。
* スマートな勾配チェックポイント: Unsloth独自のアルゴリズムは、中間のアクティベーションを非同期にシステムRAMにオフロードすることで、わずか1%の速度低下でさらに約52GBのVRAMを節約します。
* 共有GPU/CUDAメモリ空間: 他の実装とは異なり、Unslothはそのメモリ空間を基盤となるvLLM
推論エンジンと共有させることができ、さらに約16GBを節約します。これにより、学習と推論を同時に行う際にメモリが倍増するという一般的な問題を回避します。
この表は、20Kのコンテキスト長とプロンプトあたりの生成数8を持つLlama 3.1 8Bモデルにおける劇的なメモリ節約を示しています。
指標(Metrics) | Unsloth | 標準 + FA2 |
---|---|---|
学習メモリコスト(GB) | 42GB | 414GB |
GRPOメモリコスト(GB) | 9.8GB | 78.3GB |
推論コスト(GB) | 0GB | 16GB |
推論KVキャッシュ(20Kコンテキスト) | 2.5GB | 2.5GB |
合計メモリ使用量 | 54.33GB(90%削減) | 510.8GB |
結論
強化学習は高度なAIの礎であり、GRPOのような技術は、強力な推論モデルを効率的に学習させる上で大きな飛躍を意味します。Unslothの革新は、これまでのハードウェアの壁を打ち破り、より多くの開発者や研究者がこれらの最先端の手法を活用することを可能にしました。VRAM使用量の最適化、ワークフローの合理化、そしてコンシューマーレベルのハードウェア対応により、Unslothは次世代のAI開発を強力に後押ししています。可能性を探求し、今日からあなた自身の推論モデルを学習させてみましょう!
参考文献・リソース
- Unsloth GRPOガイド: https://docs.unsloth.ai/basics/reinforcement-learning-guide
- チュートリアル: GRPOで独自の推論モデルを学習: https://docs.unsloth.ai/basics/reinforcement-learning-guide/tutorial-train-your-own-reasoning-model-with-grpo
- Nathan LambertのRLHFブック: https://rlhfbook.com/c/11-policy-gradients.html
- Yannic KilcherのGRPOに関するYouTube動画: https://www.youtube.com/watch?v=bAWV_yrqx4w
- UnslothのAIエンジニア向けワークショップ資料: https://docs.unsloth.ai/ai-engineers-2025